2022年6月に施行された「AV新法」については、ニュースやWEBサイトなどで頻繁に報じられたため、AVファンならずともその話題を耳にした方は多いと思います。
しかしこのAV新法は、AV制作会社やAV女優・男優など現場の意見をほとんど聞かず、いわば「やっつけ」的に作られたと揶揄されるほど、さまざまな問題を抱えた法律だと批判にさらされています。
そんないわくつきのAV新法、果たしてどんな内容の法律なのでしょうか。
また、違反した場合の罰則や逮捕の可能性、そしてAV業界の今後やアダルトアフィリエイトへの影響などについても掘り下げてみたいと思います。
AV新法の概要
AV新法とは文字通り「AV(アダルトビデオ)に関する法律」です。
ちなみにここで言うアダルトビデオとは、メーカーが制作して販売するDVDや配信動画に限らず、個人が撮影して販売・配信する同人アダルト動画なども含まれます。
で、この法律の中身はというと、主に出演する女性との契約に関する規制となり、ひらたく言えば
契約書や内容説明を義務化し、契約後の一定期間は撮影も販売できず、もし出演女性が希望した場合は契約解除や販売を停止できる
といった内容になってます。
つまり、出演女性が十分考えられる時間を設け、本人が希望した場合は販売・配信をストップできる条件で契約しましょうね、という言わば「出演女性を守るためだけ」の法律ということになります。
制作サイドとしては出演契約から撮影、販売まで必要以上の時間が浪費されるだけでなく、突然の契約解除=販売停止のリスクがあるためヘタに出演者数を増やせない、撮影に入れない、AV女優・男優も仕事が減るなど、デメリットしかないと反発しています。
AV新法成立の経緯
では、なぜ急にこのような法律が必要になったのでしょうか。
きっかけは成人年齢の引き下げにあります。
2022年4月から、成人年齢が20歳から18歳に引き下げられることになりました。
それに伴い、18歳であれば高校生でもAVに出演できるのか、出演契約にまつわるトラブルが多発するのではないか、という声が上がり始めます。
であれば法規制をしましょうよという話になり、異例の短期間(議論から約1ヶ月半!)での施行となりました。
しかし、このAV新法を議論する以前から、いわゆる「適正なAV業界」では説明・契約などの自主規制は遵守されてきており、極論するならこのような新法は必要とされていませんでした。
それが成人年齢引き下げのタイミングとなって、急遽18〜19歳女性のAV出演に関する危険性が議論されるようになり、当事者からするとただただ迷惑な法律が出来上がってしまったといえるのです。
AV関連会社の義務・規制とは
このAV新法によって、具体的にAV関連会社はどのようなことを義務付けられたのか、以下に要約したのでポイントごとにチェックしてみましょう。
契約書や内容説明を義務化し、契約後1ヶ月以上は撮影禁止、撮影から4ヶ月間は公表できず、もし出演した女性が撮影拒否や販売停止を希望した場合、公表から1年以内であれば契約解除や販売・配信停止が可能
まずは出演する女性と事前に書面で契約書を交わし、内容の説明をする義務が生じます。
ある意味これは当然のことですので、このこと自体は大きな問題ではないといえるでしょう。
次に撮影と公表に関する規制です。
これは契約後1ヶ月以上の撮影禁止期間が設けられ、撮影後4ヶ月間は公表できないという規制です。
公表=販売ですから、撮影から4ヶ月は販売してはいけないということになります。
さらに出演者には「撮影拒否権」があり、仮に契約していたとしても撮影時に性行為の姿体など(体位・行為など)に関して拒否できる権利があるというものです。
そしてAV出演契約は公表(販売)後1年以内であれば、契約申込みを撤回し解除できるという項目も含まれています。
つまりAVが販売されてから1年以内であれば、出演者が一方的に契約を解除できるということになるのです。
その他にもいくつか出演者を保護する内容がこのAV新法に含まれています。
AV新法に違反するとどうなる?
では、このAV新法にはどんな罰則があるのでしょうか。
特に重大な罰則としては、次の2つのパターンが設けられています。
任意解除妨害
ひとつは「任意解除妨害」。
これは前述した公表から1年以内に契約を解除できるという内容に関連し、この契約解除をメーカー側が妨害した時の罰則となります。
つまり出演者が契約を解除=ビデオ・動画販売を停止してほしいと希望しても、制作・メーカー側がそれに応じないという状況です。
この場合は3年以下の懲役、300万円以下の罰金となります。
書面交付義務違反・説明義務違反
もうひとつが「書面交付義務違反・説明義務違反」。
こちらは契約時に契約内容や出演内容に関して、指定された内容が提示されなかったなどといった状況です。
6ヶ月以下の懲役、100万円以下の罰金となっています。
AV新法の問題点まとめ
AV新法は、今後AV出演やデビューを考えている女性を守るという点では、かなり厳しい規制を設けた法律となっています。
たしかに業界の健全化や出演者の保護という観点では非常に有効な法律かもしれません。
しかし一方ではこの法律が施行されて以降、多くのAV業者が顕著に業績ダウンしているのも事実です。
条件があまりにも「女性保護」に偏っているため、その煽りとして撮影後もすぐには販売できず売上が見込めないことや、販売に至っても出演者のひと言で販売停止になるリスクをはらんでいるなど、制作会社にしてみれば安易に制作へと踏み切れない状況に陥っています。
出演する側にしても、専属契約を結んでいたり十分な実績のあるメジャーな単体女優であればまだしも、企画作品ごとに契約するいわゆる企画単体女優(キカタン)の方々は契約から撮影、販売まで時間がかかり過ぎるため、その間の収入が見込めず引退へ追い込まれるケースも散見されます(もちろんAV男優の方々も同じ状況です)。
このような状況が続くと新人女優を起用しにくいだけでなく、ナンパや盗撮、人妻、モニタリングといった人気の素人系企画モノなども作りづらい状況となり、AVファンにとって不利益なだけでなく業界自体の弱体化が懸念されます。
当然、アダルトアフィリエイターの方々にとっても死活問題です。
また、さらに踏み込んだ懸念材料としては、こうした「表」の適正AV業界から違法なアンダーグラウンド業界に女性が流れるなど、結果として被害リスクが高まるという可能性も指摘されています。
これでは本末転倒です。
このように「付け焼き刃」以外の何物でもないAV新法ですが、今後改正される可能性がないわけではありません。
その際はより現場の意見に耳を傾け、女性を保護しながらも業界そのものが持続可能な改正に取り組んでいただきたいと切に願います。